ハンセン病の現実から学ぶ
─ハンセン病療養所「大島青松園」入所者とのかかわりを通して─
 
         香川県同教・庵治町立庵治第二小学校
                                                              重 淳
 
1.はじめに
 本校は、瀬戸内海に浮かぶ庵治町大島にある児童数一八名のへき地小規模校である。大島は、一九〇九年ハンセン病療養施設として「(現)国立療養所大島青松園」が開設されて以来、物理的にも心理的にも周囲から隔絶されてきた島である。島のほとんどを青松園が管理したり、島で生活する人全員が青松園と関係があったりするなど、島全体が青松園と深いかかわりがある。本校も例外でなく、青松園設立以来ずっと、また現在もほとんどの保護者が青松園に勤務するなど、学校と青松園との関係はきわめて深く、青松園や青松園入所者との交流を核とした「ふれあい学習」を従来から進めてきている。さらに、昨年度からは地域学習の時間「ふるさと大島」を核とした総合的学習において、次の三つのことをねらう学習を進めてきた。
○人権尊重の精神と反差別の態度を培う学習【ハンセン病問題学習】
○入所者との交流を深める学習【ふれあい学習】
○ふるさと大島を愛する心を育てる学習【ふるさと学習】

2.入所者から学ぶ(入所者との学習会)
 五・六年生の「ハンセン病問題学習」では、長い間差別の対象とされ、隔離されてきた入所者の生の声を聞くことで差別の現実から深く学び、人権尊重の精神と反差別の態度を培うことと、そのような環境にも負けずに生きてきた入所者の姿からたくましい生き方を学びたいと考えた。
 入所者自治会機関誌「青松」編集長中石さんからは自身の体験談と「青松」発行に対する思いを聞くことができた。体験談からは、偏見により差別され、人間としての尊厳を傷つけられたことへの悔しさや「らい予防法」により、自由が奪われたことや自分の子をもつことができなかったことなど、自分の人生を自分で選択したり決めたりできなかったことへの無念さと憤りが感じられた。また、「青松」発行については、「自分たちハンセン病で苦しんだものたちの生きてきたあかしを残すことができてよかった」「これからも青松園が存在する限り編集を続け、六〇〇号までは出したい」という思いを語ってくれた。子どもたちは、中石さんのこれまでの差別に負けない生き方や「青松」にかける熱い思いに感動し、物事に取り組み続けることや目標をもって生きることの大切さについても学ぶことができた。
 青松園入所者前自治会長曽我野さんは、これまで入所者が受けてきた差別の実態や大島での生活の実態について自分の思いを含めながら語ってくれた。「ここにいる入所者は誰しも一度や二度は死ぬことを考えた」「これまで人間としてまともに生きてこられたことが自慢である」という話の中にこれまで入所者がうけてきた差別の実態、強制収容のこと、家族との離別、家族への差別、偽名のこと、患者作業のこと、自由が奪われたことなど辛かった過去への思いがこめられていることを強く感じた。また、全国のハンセン病患者協議会の会長として「らい予防法」廃止を求める運動や入所者の待遇を改善するための運動の中心となって活動してきた話も聞くことができた。「『らい予防法』が廃止されて、頭の重石がとれ、一人ひとりの頭がやっと青空とつながり、太陽を浴び体が軽くなったような爽快感があった」という話から、全患協結成以来四三年間にわたって入所者の人権獲得や人間回復に向けて闘い続けてきた熱い思いにふれることができ、「人権」の重みを改めて学ぶことができた。

3.ふれあい学習を通して学ぶ 
 本校では一年間を通して、入所者とのふれあい学習を行い、児童会行事への招待、児童の入所者寮訪問などさまざまな形で交流を深めてきた。子どもたちは入所者とごく自然に接し、入所者から感謝されたり、喜ばれたりすることで充実した気持ちになり、ますます交流を深めたいという思いをもった。このような交流を通してお互いの理解が進み、お互いを知り、ともにかかわる中で感性を磨いていく、これがだれもがともに生きる社会をつくることにつながっていくのではないかと考え実践を積み重ねてきた。こうしたことが、子どもたちにとって「生きる力」となり、子どもの将来の生き方づくりに結びついていくのではないかと考えている。
4.「ふるさと大島」を愛する心を育てる   
○「地域学習・ふるさと大島」を核とした総合的学習
○「地域学習副読本・ふるさと大島」作成
 人と出会い、地域のことを知ることで、「ふるさと大島」を愛する心を育て、自分が育ってきた「ふるさと大島」と自分とのかかわりをみつめることで、自分を好きになる。そのような取り組みを目指し実践を積み重ねてきている。

5.おわりに 
 ハンセン病問題学習では、差別の現実に深くふれたり、入所者の人権にかける熱い思いに共感したりすることで、人権尊重の精神を学び、差別や偏見を許さない反差別の態度が育ってきていることを確信している。「ぼくは人権を大切にし、差別は絶対に許さない」平成一〇年度の卒業生二人はこれまでの取り組みの中で、人権を大切にし、差別に怒りを感じ、差別する側に立たない、立たせないという考え方ができてきた。そして、入所者とのふれあい学習やふるさと学習で学んだことを大切にしながら、大島で育ったことや本校で学んだこと、青松園で入所者とかかわりながら仕事をしている父母のことを誇りに思い、「ぼくは中学校へ行ってもこの学習で学んだことを伝えたい」と語れるたくましさも身についてきたと考えている。
 私自身、入所者から話を聞く中で一番強く感じることは「人権」への熱い思いであった。これまでの自分を振り返ってみても、これほどまでに人権の尊さについて考えることはなかった。入所者の長年に渡る「人権獲得」にかける思いは、子どもたちの心を打つとともに私たち教職員の意識を変革させた。入所者の「平均年齢は七二歳、二〇年すれば私たちハンセン病で苦しんだなかまは少なくなってしまう。この問題を闇に葬ってしまわれないように、エイズや他の難病で再び同じような過ちを繰り返さないように、自分たちの歴史をきちんと残していかなければならない」という思いや願いを大切にし、伝えていくために、本校での取り組みを、今後も継続実践していきたい。