<へき地学校の実態に即した指導内容・方法や評価の工夫改善>

            地域の特性を生かした体験・交流活動の工夫改善と
          基礎・基本の定着を図りながら確かな学力を育む指導の在り方

                               木田郡庵治町立庵治第二小学校 代表者:校長 中西眞理子(平成15年度)

1 はじめに

 本校は,瀬戸内海に浮かぶ大島にあり,児童数5名(3年生3名,4年生1名,6年生1名)のへき地1級の小規模校である。平成14年度より,「国立教育政策研究所へき地教育研究」の指定を受け,へき地小規模校の課題(少人数学習・閉鎖性・遠隔性等)を克服するために,「豊かな生き方づくり」「確かな学力の育成」を二本柱として研究を進めてきた。
 研究主題を「地域の特性を生かした体験・交流活動の工夫改善と基礎・基本の定着を図りながら確かな学力を育む指導の在り方」と定め,様々な実践に取り組んできた。

2 研究の目的

視点1 「豊かな生き方づくり」
(1) 総合的な学習の時間の充実

  地理的へき地に暮らすことは,児童や保護者の意識が物質的な充実の側面により多く向けられ,自分のふるさとに対する価値観までをも否定的に捉えてしまうことがある。
 
そこで,ふるさとの生き物や植物に代表される自然のすばらしさ,島の歴史の古さや重さに気付くとともに,そこに暮らす人々のぬくもりを感じたり,生きざまを自分の生き方につないだりする学習体験が必要であり,その充実を図ろうと考えた。総合的な学習を実践していく過程で,児童自身がふるさとの自然や歴史のすばらしさを体感できるとともに,そこに暮らす人々の生き方にふれるような活動を仕組んだ総合的な学習の時間を創り上げていきたいと工夫を重ねている。

(2) 自分づくりの交流活動

  少人数での活動が長期間にわたって継続されると,人間関係が固定化し,自分自身を客観的に見つめることが困難になる場合がある。そこで,自分自身に誇りをもち自信をつける取り組みが必要である。そのため,元ハンセン病患者である大島青松園の入所者との交流を通して,自分自身の成長を振り返ることができるよな方法を工夫したいと考えた。

(3) 他校との交流,合同学習 

 へき地小規模校の課題として,少人数学習のなかでいかに思考力や表現力を高めていくかということが挙げられる。また,相手とのコミュニケーションを図るための基礎的な力となる,「話す力」「聞く力」「話し合う力」を高めていく必要性がある。そこで,他校との交流,合同学習を計画的に進めることで,多人数のなかにあっても「自分の居場所」をみつけられる自信を児童一人一人がもてるようにしたいと考えた。

視点2 「確かな学力の育成」
(1) 指導の個別化,基礎・基本の定着

 一人の児童に関わる指導者の割合が高いからといって,基礎・基本の定着が徹底するわけではない。学習環境や生活・家庭環境,先天的・後天的な知識や理解力等に影響を受けるものである。そこで,本校では少人数である特性を活用し,授業中の指導の個別化を図り,一人一人に視点をもって指導に当たり,その個が理解しやすい方法を工夫したり,基礎・基本を定着させる方法を見付けたりしていきたいと考えた。

(2) テレビ会議システムの活用

 閉ざされた環境の中での少人数学習では,相手意識をもって調べ学習や課題解決学習に取り組むということが難しく,このような学習に取り組んでも自己満足で終わってしまうという傾向があった。そこで,テレビ会議システムを活用し,情報発信・情報交流をしようという学習を意図的に計画することにより,児童の課題追求意識や表現への意欲を高め,課題解決能力や情報活用能力を高めていきたいと考えた。

(3) マルチメディア機器の活用

 本校は,海に囲まれ周囲から隔絶された環境にあるため,児童が社会的な経験を得るには,様々な制約がある。そのため,社会的な視野がどうしても狭くなるということや社会性が十分身に付きにくいという課題がある。そこで,マルチメディアを活用し,他県の学校との遠隔学習を積極的に行ったり,インターネットを活用したりすることで社会的な視野を広げていきたいと考えた。

3 研究の方法

視点1に関する実践研究

(1) 総合的な学習「しおさい学習」ー大島案内ひきうけ会社ー【ハンセン病問題学習】
(2) 地域の人々との交流活動【青松園の入所者とのふれあい活動】
(3) 県内の中規模校(庵治小学校,二番丁小学校),小規模校(上西小学校)との学習【交流学習・合同学習】

視点2に関する実践研究

(1) 全校活動の活用【朝の読書,漢字への興味・関心,算数科における基礎・基本】
(2) 県内の中規模校(庵治小学校,新塩屋町小学校)県外の小規模校(宮崎県水清谷小学校)との交流【テレビ会議による間接交流】
(3) ホームページによる情報発信【有効な機器の活用】

4 研究の内容

 視点1「豊かな生き方づくり」に関する実践内容

(1) 総合的な学習「しおさい学習」ー大島案内ひきうけ会社ー【ハンセン病問題学習】
 「しおさい学習」は「ふるさと」「生き方」をキーワードとした本校の特色を生かした総合的な学習である。活動内容は「大島案内ひきうけ会社」で大島のことを発信するために,それぞれの児童が課題を設定し,様々な調査活動や体験活動を実施し,まとめ,報告・発信,まとめのサイクルのなかに振り返りを位置付けている。
 調査活動ではハンセン病に対する様々な差別と偏見の実態,差別と偏見にたちむかう人としての生きざまを聞き取りによって学んだ。また,大島青松園での看護体験で得た看護者の思いを案内に役立てている。報告・発信の場としては,来島者への島内の案内活動を位置付けたり,香川県連合児童会の全体発表,国立療養所大島青松園主催のハンセン病フォーラム,県や町主催の人権行事等で発表したりすることによって,コミュニケーション能力を高めている。また,これらの活動は学校での「総合的な学習の時間」で実施しているが,夏季休業日等の休日にはボランティア活動として,依頼があった来島者にも案内活動を実施し,社会貢献することによって自分自身に自信をもてるような活動も取り入れている。

(2) 地域の人々との交流活動
  元ハンセン病患者である大島青松園の入所者と様々な交流を実施している。学校行事や児童会活動としての「ふれあい夕食会」「ふれあい運動会」「ふれあい収穫祭」「ふれあい茶会」がある。また,学校便り「しおさい」や児童がパソコンで作成した行事の招待状の配付,ゲートボールや陶芸クラブ等の様々な交流活動により入所者から喜ばれている。
  こうした活動のなかで,児童が自分自身の成長を振り返ることができるように「自分づくりマップ」の作成に取り組んでいる。様々な行事の反省をすると同時に,成長してきたところやもっと成長したいところを自分自身で見つめることにより,なりたい自分に近づける手引き書的なマップである。

(3) 県内の中規模校(庵治小学校,二番丁小学校)小規模校(上西小学校)との学習【交流学習・合同学習】
 県内の中規模校や小規模校と継続的に交流・合同学習を実施している。少人数学習のなかで培った思考力や表現力が多人数のなかでも発揮でき,自分自身に自信をもつことができ,「自分の居場所」を見つけられるよう配慮している。中学生になれば必ず島外へ出て多人数のなかで学習していかなければならない児童にとって重要なコミュニケーション能力の育成に重点を置いている。 
 

視点2「確かな学力の育成」に関する実践内容
(1) 全校活動の活用
 本校は,離島という地理的なへき地であるため,保護者や児童の生活に様々な文化的刺激が制限される状況にある。そのため,朝の十分間読書を導入し,集中力を養い心や知識を豊かにしている。蔵書数が少ないため県立図書館から3ヶ月毎に100冊を入れ替えたり,地域の方からの寄付による「潮騒文庫」を活用したりするなかで,どの児童も落ち着いた態度で読書に没頭している。
 また,漢字学習の定着に関して,全校活動では,縦割りグループによるクイズやパズルを作成し興味・関心に重点を置き,書き取り練習は各学級で取り組んでいる。そして,算数では,各単元のチェック問題を作成し「めざせ 算数名人」の活用によって全教職員で基礎・基本の定着に取り組んでいる。 

(2) 県内の中規模校(庵治小学校,新塩屋町小学校)県外の小規模校(宮崎県水清谷小学校)との交流【テレビ会議による間接交流】
 相手校の友達と一緒に同じ課題で学習に臨むことで,普段の少人数の学習では得ることができない学習の深まりや広がりがあり,児童は意欲的に学習に取り組むことができる。特に様々な考え方が出てくる場面では,自分の考えを発表するだけでなく,相手の発表をよく聞いて,自分の考えに付け加えたり,考えを修正したりする機会を多く設定できる。

(3) ホームページによる情報発信【有効な機器の活用】
 本校の児童が,パソコンを利用するのは学校だけに限られているので,どの児童も学校で系統立てて指導しやすい環境にあるといえる。授業中はもちろんインターネットを活用し必要な情報を検索しながら社会的な視野を広げている。そして,学習の成果を発信する予定もある。また,パソコンを活用した招待状作りも地域の方々から好評である。縦割りグループで活動することが多く,高学年の児童が下学年の児童に操作を教えたり,内容の助言にも当たっている。

5 おわりに 〜研究を振り返って〜

 へき地小規模校の課題を克服することをねらいとして研究を進めてきた。

 研究の成果として感じられることは,へき地独特の美しい自然や温かな人の関わりから児童は自分自身やふるさとを見つめ直そうとしてきている。そして,この島がふるさとであることに誇りをもとうとしてきつつある・/span>B
 豊かな生き方を目指した活動として位置付けた,地域の人々との交流活動や総合的な学習の時間での調査・聞き取りは地域の方々から島の活性化につながると評価されている。また,児童がまとめたことや入所者の方々の生き方に対する自分の思いを島外の人々に発信したり,県内の中規模校との交流・合同学習を取り入れたりすることによってコミュニケーション能力が高まるとともに,社会貢献にも寄与している。そして,県下の様々な学校に新しい友達ができることは児童だけでなく保護者にも支持されている

 確かな学力の育成を目指した活動として位置付けたテレビ会議システム・コンピュータ・インターネットなどの活用は,へき地小規模校にとって,即時的な教育効果につながる。テレビ会議の合同学習の会を重ねる毎に,自分の考えをしっかり話す力と相手の話を聞く力が伸び,ホームページによる情報発信も積み上げられている。このようなマルチメディアの有効な活用によって,表現力・発表力が伸び,コミュニケーション能力・社会性が高まり,課題解決能力・情報活用能力が向上し,確実に一人ひとりに力が付いてきたことを感じる。また,基礎学力についての客観的なデータ(学習到達度評価)分析によっても,一部学年を除いてほぼ基準に達している。しかし,応用という視点からみると生活経験が少ないため,様々な刺激を学校が意図的に設定していかなければならない状況にある。 今後,児童数がさらに減少するなかで教職員数も減少してきた。児童への学習刺激のみならず生活刺激も限られた状況になることが予想される。人数がいれば自然に成り立つ事象が成り立っていかない状況をどのように意図的に設定すればよいか。そのための方策を探ることが,今後大きな課題として浮かび上がってきている