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作・朗読 高松市教育委員会 教育長 藤本 泰雄
町のはずれに、春になると、きれいなお花がいっぱいに咲く野原にはウサギさんが、そして、その野原の真ん中にある池には、カメさんが住んでいました。
カメさんとウサギさんは、とても仲良しでした。
春休みが終わってすぐのある日のことでした。野原の向こうの丘の上にある満開の花をつけていた大きな桜の木からは、ちらほらと花びらが、風に乗って散ってきています。春の日差しがとても気持ちのいい日のことでした。
ウサギさんがカメさんに言いました。
「カメさん、おはよう、あっそぼ!」
「ああ、ウサギさん、おはよう、何して遊ぶの」
「カメさん、せっかく良く晴れて、いい天気なんだから、ぼくとかけっこしないか。」
「えっ~ かけっこ。ウサギさんにはかなわないから、したくないなあ。」
「やろうよ、やろうよ」とウサギさんは、いやがるカメさんを自信満々に誘いました。
「いやだよ、絶対に負けるに決まっているから。」と言うと、カメさんは、頭も足も、そして、しっぽも、硬い甲羅の中に隠してしまいました。
それでもウサギさんは、甲羅だけになったカメさんの前に行ったり、後ろに行ったり、甲羅の中をのぞいたりして「かけっこ、やろうよ。ねえかめさん」「かけっこ、やろうよ。」と何度も、何度も誘いました。
「分かったよ、仲良しのウサギさんが言うのならやるよ。」と、やっとカメさんが顔を出しながら言いました。
「ありがとうカメさん、それじゃ、あの丘の上の桜の木まで競走だよ。いいかい。」
「いいよ、あの丘の上の桜の木までだね。」
「よ~い、ドン」
カメさんとウサギさんは、一緒にスタートしました。
ウサギさんは、自分の足の速さを生かして、すごい速さで、土煙をあげてゴールをめざして駆けていきました。
速い、速い。丘の上までの坂道も、まったく走るスピードも変わらず走り、途中でひと休みもしないで一目散にゴールまで駆け、あっと言う間に丘の上の桜の木のゴールに着きました。
「やったあ、勝ったぞ。」ウサギさんは、耳をぴんと立て、得意そうな顔をして、カメさんのゴールを待ちました。
ところが、カメさんはいつになってもやって来ません。
「遅いなあ。カメさん。」ウサギさんは、丘の上で首を長くして、カメさんが来るのを待ちました。
でも、待っても、待ってもカメさんの姿は見えません。
「どうしたのかなあ、カメさんは、転んで、けがでもしたのかなあ」
ウサギさんは、カメさんが遅いのを心配になって、とうとうカメさんを迎えに行くことにしました。
しばらく行くと、ふうふう言いながら、走っているカメさんにやっと会いました。
「大丈夫かいカメさん。あんまり遅いので心配したんだよ。だから、迎えに来たよ。」
「ありがとうウサギさん、ウサギさんはやっぱり速いね。ぼくは、お地蔵さんのところで、もうやめようかと思ったんだけど『頑張れ、頑張れ、カメさん頑張れ』ってお地蔵さんから聞こえたような気がしたので、がんばって走ったんだよ。
郵便ポストのところでも、もうやめようかと思ったんだけど、やっぱり『頑張れ、頑張れ、カメさん頑張れ』って声が聞こえてがんばったんだよ。
道端に咲いていたきれいな花も、ぼくに頑張れって言ってくれているみたいだったから頑張って走ったんだよ。ウサギさんは本当に速いね。すごいよ。うらやましいよ。」
「僕は、足に自信があるからね。でも、途中にお地蔵さんや郵便ポストがあったかなあ、きれいなお花が咲いていたなんて気がつかなかったなあ。
カメさんはすごいね。いろんなものをしっかりと見ながら、いろいろなものとお話をしながらがんばったんだね。うらやましいな。これからもいろいろ教えてね。」
「ウサギさんは、ぼくのことを心配してくれて、迎えに来てくれたんだね、ありがとう。これからもなかよくしようね。」
かけっこに勝ったウサギさんと、かけっこに負けたカメさんが、仲良く、どちらも嬉しそうにほほえんでいる姿を、お日様がにこにこ顔で見ていました。
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